■フォルシーニア姫の場合
しゃなりしゃなり、と上品な歩みを刻むフォル様を見かけたのは、俺が午前の城内の見まわりを終えた頃だった。
狭苦しい城内の通路が輝いて見える程、フォル様の出で立ちは神々しい。
通路を行くフォル様の足取りは軽い。上半身をほとんど上下させずに歩くその姿は、まるでそこだけ重力が働いていないようにも見える。
俺はぽーっとフォル様の立ち姿に見とれていると、フォル様が俺に気付いたのだろうか、ぱっと華やかな笑みを浮かべながらこちらに近付いてくる。
フォル様の美しい顔立ちが、俺の間近に迫る。
「こんにちは、クレスト君。お仕事中? 毎日大変ね」
フォル様の透き通った声が、俺の耳をくすぐる。
その声を紡ぎだす薄い桜色の唇を見つめながら、俺は胸の奥にゾワゾワしたものが生まれ出てくるのを感じていた。
「どうしたの? 私の顔に……何かついてる?」
にこり、と上品な笑みを浮かべたフォル様は、可愛らしく小首を傾げて俺の顔をうかがう。
いけない。少しぼんやりしてしまっていたようだ。俺は慌てて、力の抜けかけてた身体を、びしっと伸ばした。
「も、申し訳ございません。少し、気を抜いてしまいました」
「あら……ぼぉっとしてはいけないわ。クレスト君は私達の護衛役ですもの。気を引き締めていただかなくては困ります」
「わ、分かりました」
「私達、二人っきりの時は昔の通りにしていましょう。ね? 私、クレスト君とはいつまでも近しいままでいたいの」
「は、はいッ」
俺はしどろもどろになりつつ、びしっと敬礼した。フォル様がクスクス笑う姿に、胸の奥が震える。
どうも俺は、子供の頃から、フォル様の前に立つとこうなってしまう。
憧れの人、守らなければならない人を前にしているのだから、しっかりとしなければいけないということは分かっている。
しかし……フォルシーニア様は、あまりにも素敵だ。
その魅力に心を奪われないようにするなど、俺にできるのだろうか。
……まるで自信が無い。
「あ、あの……俺……フォル様の為になら何でもしたいと思っています。だから、その……何事も気兼ねなく、お言いつけください」
「本当? 何でも聞いていただけるの?」
フォル様が、端正なお顔に華やいだ笑みを浮かべ、俺に向けてくれる。
う……フォル様、可愛い。
フォル様は大人としての魅力に溢れているが、少女らしい愛らしさも失っていない。
大人の女性としての色気と、少女らしい可愛らしさを兼ね備えた神々しい王女……フォル様は、女性としても人間としても、完璧な方なのだ。
そんなことを考えている俺をよそに、フォル様は機嫌良く胸の前で手を合わせる。
「……なら、少しだけお願いを聞いていただこうかしら」
「お願い……ですか?」
「うふふっ。大丈夫。ちょっとしたことだから、あまり怯えないで」
「は……」
フォル様のお願い……いったい、どのようなことだろう。
「今夜の封印の儀式のお相手……させていただけないかしら?
「え? あ……は? そ、その、お願い……って、それが、ですか?」
「ええ。私、アイリーンやプリシラに比べて、クレスト君と一緒にいられる時間が少ないから」
フォル様の表情が、やや沈んだような気がするのは、気のせいだろうか。
「私ももっとクレスト君に構って欲しいわ。一緒に居る時間が欲しいの……それとも、ご迷惑かしら?」
俺の意思を伺うようなフォル様の目が、俺を覗き込んでいる。
フォル様……もしかして、アイリーン達に嫉妬しているのだろうか。
「こ……こちらこそ、その……こちらからお願いしたいくらいでしたから……フォル様に、お相手していただけるなんて、こんなに嬉しいことはありません」
「うふふっ。良かった。断られたらどうしようって思ってたの。ありがとう、クレスト君」
フォル様は、にっこりと微笑みながら俺の手を握る。
「今夜、クレスト君のお部屋に行きます……二人っきりの夜だから……存分に楽しみましょうね?」
フォル様の朱の差し込んだ頬には、微かなためらいと共に、暖かい微笑みが浮かんでいた。
その夜……
フォルシーニア様の豊満な肢体が、月の薄明かりの中にたたずんでいる。
くっきりと浮かび上がるフォル様のボディラインは、俺の中の情欲をひたすらそそりたてる。
大きな胸の先端に息づくささやかなピンク色の乳首が、ツンと上向きに立っていて、ひどく扇情的だ。
むちっとしたヒップがなだらかな曲線を描き、すらりとしたウェストに伸び上がっている。
何と言う見事な身体なのだろう。俺は、フォル様の身体に見入ってしまっていた。
「じっくり見られると恥ずかしいわ……お願い、あまり見ないで」
「す、すみません」
「もう……いけない人……」
フォル様のしなやかな身体が、俺にしなだれかかってくる。
俺の心臓はさっきからバクバクとうるさいくらいに鳴り響いている。
この鼓動は、フォル様に伝わっては居ないだろうか。
「うふふ……今夜は私のことだけ考えて? 私のこと……たっぷり可愛がってくださいね」
フォル様の妖艶な微笑みが、胸元から俺を見上げている。
俺は全身が痺れそうなほどの興奮を必死に抑えながら、ぶるぶる震える手でフォル様を抱きかかえた。
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